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Silly FoolsボーカルのToeが脱退
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新譜がなかなか出ないのでもしかすると解散か?と噂のあったSilly FoolsのボーカルToeが26日記者会見を行いSilly Foolsは解散しないが自分がSilly Foolsから脱退することになったと表 明した。突然のショッキングなニュースにタイ音楽界やファンに衝撃が走りマスコミでも大きく報道されることとなった今回の騒動だが、その原因はメンバー間の仲違いでもなく音楽性の違いでもなかった。Toeの個人的な宗教上そしてイデオロギー(主義、観念)的理由により他のメンバー3人とSilly Foolsとして音楽ビジネスをやっていく上で考え方の相違が出 てきてしまったようだ。事の発端となったのは、アルコール飲料のプレゼンター(キャンペーン・キャラクター)の仕事の話が舞い込んできたこと。Silly Foolsはこれまでもバイク(Yamaha)やドリンク 剤(M-150)のプレゼンターとしてテレビのCMやスポンサーの冠コンサートで活躍していたが、このような仕事は商業的に成功するには不可欠なもの。しかし、「お酒」となると話は別だというのがToeの主張。他のメンバー3人は今回の仕事を歓迎したが、ムスリム(イスラム教徒)であるToeにとってお酒は宗教上の教義に反するタブーであり、さらに、アルコール依存症が社会的問題になっておりタイ政府がアルコール飲料の宣伝を全面的に禁止しようと検討している今、あえて飲酒を促進する広告塔となることは反社会的であり自分のイデオロギーが許さないと全面的に反対。この件に関して、メンバー間の溝は埋まることはなかった。最終的に、メンバー内で多数決投票を行いToeが脱退することが決定したという。
気になるのは今後Silly Foolsそして脱退したToeはどうなるのかということだが、Silly Foolsは解散したわけではないので、今後、新しいボーカルを迎えて活動を継続していくし、現在制作中の新譜も近いうちに発売されることになるそうだ。一方脱退したToeだが、「Silly Foolsを脱退したもののMore Musicに はまだ在籍しているので、音楽活動は続けていく」という。
Toeは自分で作詞・作曲できる才能を持っているし、これまでも他のアーティストにヒット曲を提供してきたので、このような裏方の仕事をしていこうとも考えたそうだが、「タイの音楽界では著作権者に対する報酬システムが確立されていないので、このような形でプロとしてやっていくのは経済的に無理。」よってソロアーティストとしてアルバムを出していくことが現実的な選択だという。
一方、Toeが抜けたSilly FoolsはもうSilly Foolsじゃない!というファンも多いだろう。確かにSilly Foolsはタイのロックバンドの中でも国際的に通用する洗練された音楽性と ユニークな個性で他のタイのロックバンドから一歩も二歩も抜きん出た存在として崇められているバンドであり、各メンバーのミュージシャンとしての実力もすばらしいので、良いボーカルを迎えられれば新生Silly Foolsとして成功す ることも十分可能だろう。しかし、Toeの個性と才能があまりにも強すぎるため彼の代わりと成り得るボーカルを探すのは容易ではないし、たとえ見つかったとしてもこれまでのSilly Foolsとは全く違うバンドになって しまうに違いない。
現に、サンプラザ中野を髣髴させるスキンヘッドでカリスマ的なボーカルId(イート)が脱退し新ボーカルを迎えて再デビューしたロックバンドFLYは、跡形もなく消えてしまったし、ワールドデビューを志したSekが脱退したLosoの残りのメンバーは、元Ynot7のギタリストと新人女性ボーカルを迎えてFahrenheitとしてデビューしたが、音楽性が全く違うバンドになってしまった。ボーカルが代わって成功した唯一の例は、不慮の感電死でボーカルを失ったPotatoのみだが、こちらは元々人気がなかったグループが、ボーカル交代後アイドルバンドとして人気に火がついたというケースなので、人気バンドのボーカル交代とは性格が違うケースだ。
たかがアルコール飲料のプレゼンターを一本引き受けるか引き受けないかという問題でバンドを脱退しないでもよかったのにと思うファンも多いだろうが、今回の件がたまたまキッカケとなっただけで、前々からToeの心の中ではSilly Foolsの活動 はこのままでいいのかという葛藤が続いていたに違いない。それは崇高な理想も持ったミュージシャンが大衆音楽路線を選択したときからはじまっていたとも言えよう。前回のアルバム「King Size」の発表会で、Toeは「これ まで時代の最先端の音楽を志してきたが、大衆はそれについてきてくれなかった。でも、もっと多くの人達に僕らの音楽を聴いてもらいたいので、だんだん理解しやすい音楽を作るようになって行った。音的には凝ったことをやっているけど、今回のアルバムが最も聞きやすいものになっているはず。」とより大衆音楽路線を目指す発言をしていた。ジャケットにマッチョのボディーと自分たちの顔をくっつけたコラージュを採用したりコミカルなMVを作ってみたりしたのもより多くの人へアピールするための戦略。一方で「聞きやすいといっても他のバンドと同じような音を作っていたのでは駄目なんだ。自分たちの個性が感じられる音でないと、すぐ飽きられて捨てられてしまう。」と自分達の個性的なサウンドへの自信、そして、よりわかりやすいテーマを選んで曲を作ったことで絶対に大衆に受け入れられるはずという自信が伺える発言もあった。
しかし、より多くの人に聞いてもらうには、プロモーションやライブ活動を行うことが必要であり、そのためにはスポンサーの広告塔として活動することも重要なのだ。だからYamahaやM-150のCMに出演し、各地で冠コンサートを開催して回った。今回の会見でToeは、「どんなスポンサーでもいいっていうわけじゃないよ。ちゃんとメンバーと相談して厳選していたしね。自分はバイクにも乗るし、ドリンク剤も飲むから。」とこれらのスポンサーの広告塔になることにはぜんぜん問題がなかったと語っている。しかし、本音は、ドサ周りのような、こういう仕事はもうしたくないと感じていたに違いない。それよりもToeが嫌っていたのはパブやディスコでのナイトライブだったようだ。「お酒に酔って自分が何やってんだかわかってないような連中を相手に演奏しても、ちゃんと聞いてくれてるんだかどうだか疑問だよ。暴れている連中も居るし。僕はお酒を飲まないから、彼等がどうしてそうなっちゃうのかわからないけど。」と嫌悪感を示していた。「きちんとした場で(パブのように酔っ払い相手でなく)みんなに楽しく僕らの音楽を聴いてもらいたい」という理想を求めるToeにとってナイト・ライブを続けていくことは辛かったに違いない。そこに舞い込んだアルコール飲料のプレゼンターとしての仕事は、より一層ナイトライブの仕事が増えることを意味しており、さらに、自分の宗教上の教義とイデオロギーに反してまで飲酒を促進しなければならないわけで、彼の忍耐も限界に達してしまったのだろう。当然、長年一緒に仕事をしている他のメンバーも彼の心境は理解していただろう。しかし、大衆音楽を演奏するロックバンドとしての道を選択したSilly Foolsが今回のスポンサーからのオファーを断ることは商業的に不可能だったのではないだろうか。
タイの音楽業界はスポンサーなしでは成立し得ない。CDを出すにもコンサートを開催するにもスポンサーから資金の援助がなければ商業的に成立しない世界なのだ。だから、今回のオファーを断ることはバンドとしても事務所としても商業的に回復不可能なダメージを被ることになりかねず、選択の余地はなかったのだろう。しかし、Toeは自分の宗教上の教義とイデオロギーに反することはできないという確固たる信念を持っていた。残された選択肢は一つしかない。自分がバンドから抜けることだ。そうすれば、バンドも事務所もこれまでどおり商業的活動を継続できるし、自分の宗教上の教義とイデオロギーに反することもない。メンバー間の仲間割れでもない、音楽性が違ってきたわけでもない。しかし、プロのバンドとして飯を食っていくには、やむを得ない断腸の思い出の選択だったに違いない。
Toeの脱退は非常に残念なことだが、既に決まったことであり、われわれ音楽ファンをそれを受け止めるしかない。前向きにとらえて、今後の新生Silly FoolsおよびソロになったToeの活躍に期待しよう。
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